Masuk宿の女将さんに教えてもらった防具屋に着く。まだそれなりに早い時間帯だが、その店は既に営業を開始していた。入り口の扉に「OPEN」と書かれた札が掛けられている。カリナがヤコフを連れて店に入ると、店主が声を掛けて来た。
「おや、いらっしゃい。こいつは可愛らしいお客さんだ。もしかして冒険者なのかい?」
店主はどうやらドワーフのようで、恰幅の良い体格、言い換えればずんぐりとした小柄の体格に、顔には立派な髭を蓄えていた。手先が器用な種族で鍛冶や生産などにその能力を発揮する。ゲームプレイヤーなら誰もがある程度は知っている知識である。その店主は、まだ幼さが残る少女が小さな子供を連れて来たので驚いたのだろう。
「おはよう。店主、済まないがこの子に合う防具を見繕ってくれないだろうか?」
「まあ、客の要望だから応えさせてもらうが……。こんな子供を冒険にでも連れ出すつもりなのかい?」
「少々訳ありでな。この子のことは私が守る約束だが、万が一に備えてね。どうかな?」
「ふむ、客の事情には深入りせん主義だ。子供でも着れる軽い装備を準備しよう」
「話が早くて助かるよ」
店主はヤコフの身体をごつい手で掴み、素早く寸法を測り終えると、身体に合うサイズの軽いレザーアーマーを着せてくれた。頭にもなめし皮で作られた頑丈な皮の帽子の様な兜を被せた。さすがドワーフだけあって、皮の製品であっても硬く、防御性能は高そうである。この装備に依存する展開が来ないことが一番だが、念には念を入れてのことである。
「これでどうだ? ウチでは一番小さいサイズだが、かなり硬くなめした皮で作っているから、多少の攻撃ではびくともしないはずだ」
鎧と帽子を身に付けたヤコフが鏡の前で自分の姿を見て確かめている。
「すごいね、これ。硬いのに軽いから着ていても全然苦しくないよ」
「そうか、ならそれにしよう。店主、値段は幾らだろうか?」
「そうだな、本当は二つ合わせて8,000セリンだが、サイズが合う人間がいなくてな。もう売れないと思っていたから5,000に負けておくよ。それでどうだ?」
「わかった、それで十分だよ。ありがとう」
カリナが代金を払うと、店主から「まいどあり」という言葉が返って来た。こういう店での定番のやり取りである。
「良い買い物ができた。また機会があれば寄らせてもらうよ」
「おう、気を付けて行ってきな」
愛想の良い店主に見送られて二人は店を出た。そろそろ集合時間になる。カリナはマップを見て街の広場の場所を確認すると、ヤコフの手を引いて歩き始めた。
◆◆◆ 街の中心部にある広場は多くの人で賑わっていた。屋台などの出店も出ており、ここがこの街の憩いの広場なのだとわかる。中心部に見えた大きな時計塔の真下にはベンチがあったので、ヤコフとそこに腰掛ける。まだエリア達は到着していないようなので、カリナは自分とヤコフの分のいちごオレを取り出して渡してやり、自分のストローに口を付けた。約束の10時を回ったが、エリア達がまだ来ない。カリナは時間はきっちり守るタイプだったので、少々イライラした。そこに人混みの集団が遠くから近づいて来る。誰か有名人でもいるのだろうかと思って、その集団に目を凝らす。
そこには人々に声を掛けられながら此方に向かって来るシルバーウイングの面々がいることに気付いた。どうやら野次馬が多くて余り速く進めなかったのであろう。周囲から彼らに挨拶や声かけなどがされているようである。
「頑張れよ、シルバーウイング!」
「エリア、今日は何処へ行くんだい?」
「ロック、あんまり調子に乗んなよー」
「今日も厳ついな、アベル」
「セレナちゃん今日も可愛いぞ」
耳を澄ますとそのような他愛もない言葉が交わされている。これがAランクギルドの人気というものなのだろうか。カリナはあんな風に人気者になって騒がれるくらいなら、目立たずBランクの冒険者のままでいいと思うのだった。
人混みを掻き分けて、エリア達が時計台の下にあるベンチに腰掛けたカリナとヤコフを発見し、二人の下に走り寄って来た。やっと来たかという感じで、カリナがエリアを見る。
「ごめんね、そこで人混みに捕まっちゃって……。本当に遅れてごめん」
エリアが謝罪をしたが、カリナの機嫌は悪い。
「遅いぞ。私は時間が守れない人間が一番嫌いなんだ」
「本当にごめんなさい。あんなにも人が集まるとは思わなくて……」
予想外に人が集まり過ぎたのだろうか。それなら仕方がないと諦めて、カリナは水に流すことにした。
「まあいい。次があったら気を付けてくれ。それにしても野次馬が集まるとは、Aランクの冒険者というのは人気者なのだな」
「へへ、まあな。ウチのギルドはこの街じゃ結構人気なんだぜ」
ロックが軽口を叩く。それは別に構わないのだが、カリナには野次馬の視線が自分達にも注がれているのが居心地が悪い。
「散らせられないのか? 此方まで値踏みされているみたいで余りいい気分じゃないな。それにヤコフまでジロジロと見られるのは可哀想だろう?」
不機嫌そうにそう言ったカリナの言葉を耳にして、アベルが野次馬に大声で話しかける。
「済まないが、これから大事な話し合いもある。みんな戻ってくれないか?!」
その言葉を聞いて、野次馬達はぽつぽつと退散していった。ようやく静かになったか、とカリナは安堵した。そうやって気を抜いた瞬間にセレナが急にカリナに抱き着いて来た。
「はぁ……今日もとても可愛い! この衣装もフリフリで凄く可愛いわ! ああー、もう食べちゃいたい!」
カリナと衣装の匂いをくんくんと嗅ぎながら、頬を擦り合わせて来るセリナ。そのあまりの距離の近さに、カリナは逃げようと体をよじる。
「何なんだ、お前は? ええい、離れてくれ!」
それでもがっちりと抱き着いてカリナを解放しないセレナを、エリアが後ろから羽交い絞めにした。
「はぁはぁ、何なんだこいつは……」
可愛いなどといわれることはあっても、ここまでの行動をして来る輩はいなかった。さすがに度が過ぎている。
「いい加減に謝りなさい!」
エリアが興奮するセレナの脳天にチョップを喰らわせると、セリナは「ふぎゃ」と言って大人しくなった。
「ごめんなさい……。昨日からずっと可愛くて仕方ないと思っていたんだけど、今日改めて会ってみるとその可憐さについ我慢が……」
ここまで変態的に絡まれると、さすがに気味が悪い。カリナは次に絡まれたら、相手が女性とはいっても手が出るかもしれないとまで思った。そうならないためにも釘を刺しておく。
「セレナ、お前は私の側に寄らないでくれ。さすがに気味が悪い。次に同じことをしてきたら、私でも手が出るかもしれないぞ」
「はい、我慢します。だから嫌わないで、カリナちゃん!」
「いや、別に嫌うとかの話じゃない。シンプルに気持ち悪いから止めてくれと言ってるんだ」
「嫌われてないのなら良かった!」
会話が成立しない。この手の手合いは初めてである。カリナは今後もこの女性にだけは隙を見せないように気を付けないといけないと思った。
「ま、まあ、とにかく揃ったことだし、そろそろ出発しましょう。片道一時間程度の道のりだけど、ぐずぐずしてたら日が暮れてしまうわ」
エリアのその一言で、一行はようやく出発となった。カリナは出発前に既に精神的疲労を感じていた。飲み干したいちごオレの容器を広場のゴミ箱に捨てる。
「死者の迷宮はこの街から南に行ったところにある。前衛は俺が務めるから、みんなは後ろからついて来てくれ」
街の南門から外に出て、両脇に木々が立ち並んだ道を進む。カリナはエリアの帯同している剣が淡い光を放っていることに気付いた。
「それは光の属性剣か? 良い装備を持っているな」
「ああ、これね。アンデッドが多いダンジョンだし、ウチの団長から借りて来たのよ。光属性は奴らの弱点だしね」
鞘をぱしぱしと叩いて、剣の自慢をするエリア。属性武器はその属性の精霊の祝福を受けている。そしてそれは魔法をある程度のレベルまで鍛えた者にしか目視できない。それを一目で見破ったカリナは一体何者なのだろうかと、セレナは思った。
「へぇ、ヤコフに防具を準備してやったのか。優しいんだな、カリナちゃん」
ロックがヤコフの身に付けている装備を見てそう言った。
「一応万が一に備えてな。私が守ると言った以上絶対に守るが、何が起きるかはわからない。だから最低限の防具は必要だと思ったんだよ」
ヤコフはそんなことを言われながら、自分が身に付けている皮の鎧を手で触った。
「だが、心配するな。万が一など起きないように気を配る。だからヤコフは心配しなくてもいいからな」
「うん、ありがとうカリナお姉ちゃん」
そう言ってヤコフは笑顔になった。気にかけてくれる者達がいることが、今のこの少年には心強いのだろう。
「あ、昨晩はどうだったの? 二人共あの宿でよく眠れた?」
セレナがにやにやしながら昨夜のことを聞いて来た。
「ああ、そうだった。宿代も先に払っておいてくれたんだな。ありがとうエリア」
「いえいえ、お安い御用よ」
何のことはないという風に返すエリアには好感が持てる。
「昨日はそうだな、ヤコフが泣いて寂しそうだったので一緒に寝たよ。少しは安心してくれたみたいで、よく眠っていた。私もよく眠れたよ」
それを聞いて、セレナの目の色が変わる。
「なななな、一緒に寝たの?! なんて羨ま、いやけしからん展開なの! くぅ、私も同じ宿に泊まれば良かった!」
「いい加減に落ち着きなさい!」
エリアのげんこつがセレナの頭にヒットする。セレナは「ふぎゃっ」と言って大人しくなった。
「別にそんなにおかしなことじゃないだろう? 子供が泣いていたから一緒に寝ただけだ。騒ぐようなことじゃない」
「カリナちゃんはまるで大人の様な発言をするのね。口調もだけど、何だか男前だわ」
セリナの一言に、カリナは「そりゃ内面は大人なのだから当然なんだけどな」と思ったが、口には出さなかった。
暫く道なりに進んで行くと、前方に人影の様なものが見えた。それが此方へゆっくりと進んで来る。カリナの探知スキルはそれが魔物だという反応を示した。どうやら敵のお出ましである。
「出たな。ここいらじゃ頻繁に目にする魔物、ゾンビだ。この程度は俺達に任せてもらおう」
アベルがそう言うと、シルバーウイングの面々は前方へと駆け出した。ここはお手並み拝見といくかと思ったカリナは、ホーリーナイトを召喚し、ヤコフの護衛に回した。
「おりゃああああ!!!」
先に突っ込んだアベルの巨大なバトルアクスが風を切り、前方のゾンビを頭から真っ二つにする。その豪快な一撃は重戦士の名に恥じない。続いて飛び出したエリアの光の属性剣が閃き、ゾンビの腕を切り落とす。そしてロックが目にも止まらぬ速さで懐に入り込み、二刀のナイフで急所を貫く。とどめとばかりに、セリナが詠唱を完了させる。
「燃え上がれ、紅蓮の炎よ! ファイアボール!」
放たれた火球がゾンビ共に直撃し、紅蓮の炎が彼らを包み込む。魔物達は断末魔を上げる間もなく灰になって消滅した。
「おお、さすがはAランクのギルドだけはある。見事な連携だな」
「うん、すごいなぁ……」
カリナは感心し、ヤコフは間近で見る高ランク冒険者の戦いに目を奪われていた。
「まぁ、こんなもんかな? お、魔法石発見。貰っておくか」
ロックが灰になったゾンビの中から紫色に光る欠片を取り出した。魔物を倒すと偶に手に入る魔法石である。この世界では貴重なエネルギー資源となっている代物だ。例えばランプに灯りを灯したりするのに使用される。エデン王国ではカシューがもっと大きな機構を動かすための動力源として研究している。冒険者の仕事がなくならないのは、この魔法石が人々の生活に欠かせない物として取引きされているからでもある。
「見事だな。この調子なら私の出番はないかもしれない」
敵を殲滅して戻って来たエリア達にカリナはそう言った。
「まあ、街道周辺に出るゾンビはまだ雑魚だからね。死者の迷宮に入ればもっと危険なグールやスケルトンなんかが出て来るから、油断は禁物ね」
エリア達シルバーウイングの面々と話しながら道を進むと、そこに神殿の様な造りをした荘厳な建物が姿を現した。この建物の中がダンジョンに通じている。死者の迷宮がその大きな口を開けて一行を待ち受けていた。
「さて、ここからが本番だな」
カリナは左拳を右掌に打ち付けると、両頬をパンパンと叩いて気合を入れた。
「うわぁ、凄い流れですにゃ。落ちたら溺れるにゃ」「泳いでいくしかなさそうだな。だが……」 カリナは自身の服――メイド隊が丹精込めて作った猫耳フードのローブを見た。この激流に服を着たまま飛び込めば、水の抵抗で動きが鈍るし、何よりこの服が台無しになってしまう。ルナフレアは「側付き」としてカリナに尽くしてくれているが、その愛が重い分、服を粗末に扱うと後が怖い気がする。「脱ぐぞ、隊員」「へ? ここでですかにゃ?」「ああ。濡れた服は重りになる。それに服をダメにしたらルナフレアに何を言われるか分からん」 カリナは躊躇なくローブとインナーを脱ぎ捨て、全裸になると、それらを素早く畳んでアイテムボックスに放り込んだ。隊員も自分の装備をしまう。「しっかり掴まってろよ!」「はいにゃ!」 カリナは裸のまま隊員を胸に抱くと、助走をつけて暗い水面へと躍り出た。 バッシャァァンッ!! 突き刺すような冷たさが全身を包む。流れは速いが、カリナの身体能力ならば制御不能というほどではない。彼女は水流に身を任せつつ、出口を目指して激流に流され続けた。 ◆◆◆ 数十分後。暗い水路の先に光が見え、カリナ達は勢いよく外の世界へと吐き出された。 ザバァァァッ! 顔を出したのは、世界樹の森の一角にある静かな泉だった。結界の外に出たようだ。カリナは浅瀬に上がり、濡れた髪をかき上げた。太陽の光が濡れた肢体を照らし、水滴が真珠のように白い肌を滑り落ちる。「ぷはぁ、冷たかったな。風邪を引く前に拭かないと」 アイテムボックスからバスタオルを取り出し、隊員と自分の水気を拭き取っていると――不意に背後の茂みが揺れ、人の気配がした。「……誰だ」 カリナはタオルで身体を拭きつつ、鋭い視線を向ける。そこに立っていたのは、深緑のローブを目深に被り、顔を隠した男だった。男は一瞬息を呑み、呆然とカリナを見つめていたが、やがて低い声で尋ねてきた。「……お前は、精霊か?」 森の奥深く、清らかな泉に佇む全裸の美少女。その神秘的な光景に、男は人ならざるものを見たような錯覚を覚えたようだった。だが、カリナは冷静に首を横に振る。「いや、私は冒険者だ」「隊長は最強の召喚士にゃ、控えおろうにゃ」「……そうか。すまない、あまりにも精霊のように美しかったもので、見間違えたようだ」 男はフードの下でバツが悪
一夜明け、ザラーの街に清々しい朝が訪れた。窓から差し込む陽光に目を細めながら、カリナはベッド脇の例の「メイド隊からの衣装」セットの二つ目を取り出した。「……さて、今日の『着せ替え』はなんだ?」 恐る恐る広げたその衣装を見て、カリナは天を仰いだ。「あいつら……本当に森に行く気があるのか?」 そこに入っていたのは、白を基調とし、鮮やかな黄緑と黄色のリボンやフリルがあしらわれた、体のラインが出るタイトなローブ。しかもフードには、ふっくらとした「猫耳」がついている。インナーは紫に白と黒のデザインが施されたシックなワンピースだが、足元はガーターベルト付きの白いニーハイソックスに、黒地に白いラインが入ったショートブーツという、絶対領域を強調するような組み合わせだ。「防御力と動きやすさは最高級の素材らしいが……この猫耳は必要なのか? 完全にコスプレじゃないか」 ブツブツ文句を言いつつも着替えて鏡の前に立つと、そこにはあざといほどに可愛い「猫耳魔法少女」が完成していた。悔しいが、サイズも完璧だ。「ま、誰も見てない森の中だ。我慢するか」 フードを被って猫耳をピコピコさせながら、身だしなみを整えて隊員と共に階下へ降りる。「おはようございますにゃ、隊長。今日もバッチリ可愛いですにゃ」 「うるさい。行くぞ」 食堂に降りると、女将さんが満面の笑みで駆け寄ってきた。「おはよう、英雄さん! 昨日はあんたのおかげで、夜遅くまで祝杯を挙げる客で大忙しだったよ! 街を救ってくれて本当にありがとうねぇ」「いや、私はただのきっかけだ。皆が頑張ったからだよ」「謙虚だねぇ。さあ、今日はサービスで特盛にしておいたよ! しっかりおあがり!」 出された朝食は、厚切りのベーコンエッグに、山盛りのサラダ、そして焼きたてのパンと具沢山のスープ。カリナと隊員は感謝してそれを平らげ、エネルギーを充填した。 宿を出て、人目が少ない場所でペガサスを召喚する。カリナは猫耳フードを抑えながら天馬に跨り、北西の空へと舞い上がった。 ◆◆◆ ザラーの街を離れ、しばらく飛ぶと、眼下の景色は荒野から深い緑へと変わっていった。 『世界樹の森』。 その名の通り、視界の果てまで続く樹海だ。そしてその遥か彼方には、雲を突き抜けるほど巨大な一本の樹――世界樹が鎮座している。「でかいな……。遠近感がお
「うおおおおおおっ!! 勝ったぞぉぉぉぉ!!」 「我々の勝利だ! アレキサンド万歳! 緑の戦女神、万歳!」 総裁バズズが燃え尽き、残った魔物の群れが霧散したのを見届けた瞬間、砦に詰めていた騎士達や冒険者達から、大地を揺るがすような歓声が爆発した。彼らは武器を放り出し、兜を脱ぎ捨てて、戦場の中心で悪魔の素材を回収していたカリナの元へと駆け寄ってくる。「すげえ……本当に一人で、軍勢ごと悪魔を倒しちまったぞ……!」 「なんて強さだ、それに近くで見ると本当にお人形さんのように可愛らしい……!」 「あの細い腕のどこにあんな力が……。まさに戦場に降り立った女神だ!」 血と土埃にまみれたむさ苦しい男達が、キラキラした尊敬の眼差しでカリナを取り囲み、口々に称賛を浴びせる。その中心で、カリナの肩に乗ったケット・シー隊員は、ふんぞり返るように胸を張り、これ以上ないほどのドヤ顔を晒していた。「ふっふーん! 見たのにゃお前達! これが隊長の実力にゃ! もっと褒めて、もっと崇めるにゃ!」 まるで自分が倒したかのような態度だが、誰もそれを咎めない。むしろ「何だこの猫可愛いな」と頭を撫でられ、満更でもなさそうだ。 一方、当のカリナは居心地が悪そうに頬を掻いた。「いや、戦乙女とか女神とか、そういうのは止めてくれ。私はただの冒険者だよ」「ご謙遜を! 貴女様は今日、間違いなくこのザラーの街を、いや、アレキサンドの危機を救って下さったのです!」 指揮官を務めていたアレキサンドの騎士団長らしき男が、カリナの前に進み出て最敬礼をした。「この武功、必ずや本国のアレキサンド国王陛下にご報告致します。貴女様のような英雄が訪れてくれたとなれば、陛下も大層お喜びになるでしょう。是非いつか、王都へもお越しください。国を挙げて歓迎致します!」「あ、ああ……機会があればな」 熱烈な歓迎ぶりに、カリナはタジタジだ。このままでは胴上げでもされかねない雰囲気を感じ取り、カリナは素早く空を見上げた。「では、私は報告があるから戻る。後は任せるよ」「はっ! この御恩は忘れません! 緑の戦乙女に栄光あれ!」「戦乙女に栄光あれ!!」 数百人の兵士達が一斉に剣を掲げ、勝鬨を上げる。その熱狂的な声を背に受けて、カリナは再びペガサスを召喚し、隊員と共に空へと舞い上がった。 太陽はまだ高く、まぶしい日差しが照り
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二足歩行の猫だった。「はぁ? なんだお嬢ちゃん、迷子か?」 「悪いが今は遊んでる場合じゃねぇんだ。お人形さんごっこなら他所でやってくれ」 男達は呆れたように手を振って追い払おうとする。無理もない。この血生臭い状況に、カリナの姿はあまりにも不釣り合いだった。「遊びじゃない。私は冒険者だ。その砦に向かうと言っているんだ」 カリナが出口へ向かおうとすると、男達が慌てて立ちはだかった。「おい待て待て! 死にに行く気か!?」 「そこはピクニックに行く場所じゃねぇんだぞ! そんなフリフリの恰好で戦場に行ってみろ、魔物の餌になるだけだ!」 「悪いことは言わねぇ、家に帰ってママのミルクでも飲んでな!」「隊長は凄いのにゃ! お前達こそ控えおろうなのにゃ!」 彼らは本気で心配し、必死に止めようとしている。根は良い奴らなのだろう。だが、今は一刻を争う。カリナは懐からAランクのギルドカードを取り出し、彼らの目の前に提示した。「忠告は感謝する。だが、心配は無用だ。私はAランク冒険者のカリナ。組合長ヒースからも直々に討伐の許可を得ている」 黄金色に輝くカードを見た瞬間、男達の顔色が変わり、ロビー中がどよめいた。「え、Aランク……!? この歳でか!?」 「ま、待てよ、カリナって……あのルミナス聖光国を救ったっていう、エデンの凄腕召喚士か!?」 噂はここまで届いていたらしい。彼らの表情が、驚愕から縋るような希望へと変わる。「あんたがあの英雄なのか……?! 俺達じゃどうにもなんねぇ数なんだ! 頼む、仲間達を助けてやってくれ!」「ああ、任された。吉報を待っていてくれ」「任せておくにゃ」
エデンを飛び立ち、ペガサスに乗って北西へ。眼下には雄大な景色が広がる。高度が上がるにつれ風は冷たくなり始めていたが、ペガサスの発する魔力の加護と、ルナフレアから渡された厚手のコートのおかげで、空の旅は快適そのものだった。 やがて右手遠くに、堅牢な城壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。無数の塔と城壁が幾重にも連なる、武骨ながらも美しい石造りの国。「あれが初期五大国の一つ、今の騎士国アレキサンドか……」 かつてゲーム時代、メインキャラであるカーズも、そしてこのサブキャラであるカリナも、冒険のスタート地点として選んだのがこの国だった。騎士や剣士など、物理防御と攻撃に特化した兵科を多く輩出する国。兄設定であるカーズがカシュー達とエデンを建国するずっと前、初心者時代に剣の腕を磨いた場所でもある。懐かしい景色に目を細めつつ、カリナはそこを通過し、さらに西へと進路を取った。 何度か地上に降りてペガサスを休ませ、隊員と軽食をとりながら進むうちに、太陽は西の地平線へと沈みかけ、空が紫と茜色のグラデーションに染まり始めた。「隊長、そろそろ日が暮れますにゃ。お腹も空いたにゃ」「そうだな。夜間の飛行は視界も悪いし、今日はこの辺りで宿をとろう」 カリナは眼下に見えてきた街の近くにペガサスを降ろした。労いの言葉と共に送還し、隊員を連れて徒歩で街の南門へと向かう。 見えてきたのは、高い石壁に囲まれた街。近づくにつれ、カリナは違和感を覚えた。記憶にあるここ「ザラーの街」は、ゲーム開始直後のプレイヤーが集まる、のどかで開放的な初心者用の街だったはずだ。 だが、目の前にあるのは、無数の傷跡が刻まれた分厚い城壁と、物々しいバリケード。100年という時は、平和だった始まりの街を、魔物の脅威に晒される最前線の拠点へと変貌させていたのだ。 石造りの門の前には、二人の兵士が立っていた。槍を持ち、アレキサンドの紋章が入った鎧を着ているが、その眼差しは鋭く、妙に殺気立っている。「止まれ。これより先はアレキサンド領ザラーの街だ。身分証の提示を」「ああ、冒険者だ」 カリナは首に掛けていたギルドカードを外し、兵士に手渡した。兵士は事務的な手つきでカードを受け取り、そこに刻まれたランクと名前を確認する。そして次の瞬間、その目が驚愕に見開かれた。「えっ……Aランク!? それに、名前はカリナ……
演習場での模擬戦は、カリナの圧倒的な勝利に終わった。リーサは完膚なきまでに叩きのめされたが、その表情は晴れやかだった。目の当たりにした召喚術の神髄に、彼女は心の底から感動していたのだ。 その後、一行は玉座の間へと移動した。カシュー王が玉座に腰を下ろし、エクリア、アステリオン、レミリア、そしてカリナとリーサがその前に並ぶ。騎士団の面々やルナフレアは、少し離れた場所で見守っていた。 カシュー王が威厳のある声で告げる。「これより、エルフの召喚士リーサを、エデン王国筆頭召喚術士カリナの代行として任命する」リーサは緊張した面持ちで、カシュー王の言葉に耳を傾ける。「リーサよ、カリナはエデンの特記戦力であり、その力は我が国の要である。しかし、彼女は多忙な身であり、常にこの地に留まることはできない。其方には、彼女の不在時にその力を代行し、エデンを守る重要な役割を担ってもらいたい」「ははっ、身に余る光栄にございます」 リーサは深く頭を下げ、カシュー王の言葉を承諾した。「カリナ、其方からも言葉をかけてやってくれ」 カシュー王に促され、カリナが前に出る。彼女はリーサを見つめ、静かに語りかけた。「リーサ、お前の実力は認める。だが、召喚術の道は険しい。決して慢心せず、精進を怠るなよ」「はい! 肝に銘じます、師匠!」「だから師匠はやめろと言っただろう」 カリナは苦笑しながらも、リーサの熱意を嬉しく思っていた。「リーサ、お前には期待している。エデンを、そして民を守るために、力を貸してくれ」「はい! この命に代えても、エデンをお守りします!」 リーサは力強く宣言し、カリナに忠誠を誓った。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。 カシュー王は満足げに頷き、玉座から立ち上がった。「うむ。これにて任命式を終了する。皆の者、これからもエデンのために力を尽くしてくれ!」「はっ!」 玉座の間に、騎士達の力強い声が響き渡る。 こうして、エデンに新たな優秀な召喚士が加わった。リーサはカリナの代行として、そして一番弟子として、召喚術の道を歩み始めることとなる。 その後、カシュー王は皆を労い、祝宴が開かれることとなった。宴の席では、騎士達がカリナの武勇伝を語り合い、リーサも熱心に耳を傾けていた。 カリナはルナフレアにジュースのグラスを傾けながら、静かに呟いた。「これ







